ハナへ
この手紙をハナが見ている時
ハナは何をしているかな。
バリバリ働いているのかな。
のんびりマイペースに自分の時間を過ごしているのかな。
もしかしたら今の私みたいにママになっていたりして。
ママはしわだらけのおばあちゃんになっているのかな。
それとも、必死でしわを隠して、厚ぼったいお化粧をしていたりするのかな。
それよりなにより
ハナとは仲良しでいるのかな。
ハナの3歳のお誕生日が終わって、ママは家族全員が寝静まった家の居間で、寒いのを温風ヒーターで温めながら今、ハナへのお手紙つづっています。
ハナは今日ねんねの前にマッサージをしたら
「ママ、だーいしゅきよ…」
とつぶやいて、そのあとすぐにグウグウ寝てしまったよ。
大きくなったハナは、どんな服を着て、どんな髪型をして、どれくらいの背丈で、どんな声でしゃべって、どんな友達と仲良くて、どんな趣味をもっているんだろう。
たあいのない、そういうことを想像するだけで、こんなに胸の中がわくわくドキドキするなんて。
― 舌足らずで「いただきます」を「いったったたーしゅ!」と言ったり、ポテトをいつも「タポテ」と言ったり、バナナが「ナモナ」って発音になったり
車の絵がいっぱい描かれたハルの男の子用の服を着て「これ、かっくいーね!」と言いながら、得意げに微笑んだり、得意気になるととつぜん姿勢が正しくなって歩き方がスックスックとなったり
集団の中にいるとかたまってしまったり
人が先、いつも自分は後まわしで
私が隠れて泣いているのを見つけた時
「ママ、ばいぼーぶよ!(だいじょーぶよ!)」
と、その小さな手で抱きしめてくれたり
いつも一生懸命で、身体の痛みに強くて転んでもぜったいに泣かないし
風邪をひいたり、強いウイルスに苦しんだりしても、じっと静かに耐えるのに
心はめっぽう弱くて、誰かに注意されたり軽く叱られたりするだけで、ボロボロと大粒の涙を流して落ち込んだり
お買い物の時、2人で手をつないでお店を歩くのが好きで
「アナと雪の女王」の歌詞がなぜかとても完成度高かったり
歌うことと踊ることが大好きで、とても大きな声でいつも歌っていて
本が大好きで、文字は読めなくても、堂々と語っていたり
ケーキを作っている途中にボウルについたクリームやチョコレートをなめるのが大好きで
ウミが生まれてもやきもちを焼くことは一度もなくて、まるで「ちいさなかあさん」みたいに、小さなウミをなでていたり
ウミのおむつを替えているときに、何も言ってないのに「いいよ!」といって走ってオムツを取ってきてくれたり
ビールを飲んでいると「トッテクルネ!」と言って、冷蔵庫まで走っていって、私にはノンアルコールビールを、パパには発泡酒を持ってきてくれたり
甘えたいときもいつもひかえめに抱っこをリクエストしたり
そういう要素の名残はどこまであって
どこから溶けているのかな。
― あの日。
やさしいサインみたいに陣痛がはじまって
ママのペースを守ってくれるみたいに病院着いたらとつぜん陣痛が進んで
心を込めて祈るように呼吸しながらハナの誕生を待っていた、あの日。
ママはハナの「おかあさん」になることができました。
今思えば
「痛くて大変な時ができるだけ少しで済むように」
というハナのはからいに思えるほど、ママのはじめての自然分娩は非の打ちどころのないほどの大成功でした。
生まれたその日から元気にびっくりするくらい上手ににおっぱいを飲んで
むくむくとお肉をつけて大きくなってくれたハナ。
いつもご機嫌で笑ってくれたハナ。
離乳食もパクパク食べてくれたハナ。
文字だけみると単純すぎて響きづらいかもしれないけれど
このことで、どれほど私が母親としての自信と勇気をもらえたか。
ほんとうにすごいことなんだ。
自分の赤ちゃんが
おっぱいのんで、ごはんを食べて、笑ってくれることって。
ママはハナのおかげで、母親として女性として
自信を持つことができた。
ハナが生まれてきてくれてからの日々は、目を閉じて思い出すと記憶の映像にキラキラがついて見える。
「幸せって、こんなに雄大でどっしりしてて、深くて大きくて、あたたかくしみわたるものなんだなあ。」
って、毎日感じていたよ。
― 今でも思い出すのはね
ハナが生後6ヶ月か7か月くらいの時かな。
バンコクにいた時で、ハルをレインボー幼稚園に送ってからの時分。
ハナと二人で「ターミナル21」のフードコートに行ってね
ママはターメリックライスにチキンが添えてあるごはんを食べて
ハナは家から持参した食パンスティックを両手に握ってニコニコ食べていて
外はとても晴れていて、明るい午前中の光が窓から差し込んでいて
ハナはとても美しくてまあるくてかわいくて
ママは胸がつぶれてしまうんじゃないかというほど愛しい気持ちでハナを見ていて
幸せな気持ちが押し寄せすぎて涙があふれてきそうになって
あの時、あわてててんじょうを見上げたのを覚えてる。
なぜだかね。
ハナがとても小さかったときのことを思い出すと、まずこの時のことが頭に浮かんでくるんだよ。
ずっと思ってた。
ハナを抱っこしていると
大きくて心地よい船に寝そべって、ゆったりのんびり海に浮かんでいるような気分だった。
毎日、毎日。
ママは小さなハナと一緒にいられて、本当にしあわせだった。
感謝と愛しさがあふれてこぼれおちそうな日々でした。
今、祈ることはただひとつ。
ハナに、自分の持っているあったかくて特別な宝ものをずっと大事にしてほしいということ。
ママはその宝ものことを、よーく知っているよ。
いつも、そばで見ていたから。
最後にー
ママのところに
生まれてきてくれて
ありがとう。
ほんとに
ありがとう
ハナ。
もてるかぎりすべての愛を
心の底の底から込めて
2014年12月15日 0時33分。
清水区幸町の家の居間にて
34歳のママより